Vermilion::text 17階1号室 ベータ「何の変哲も無い日常」

リネと呼ばれる少女がここ居る。リネはパパと呼ぶ父親とママと呼ぶ母親、そしてニルと呼ぶ雑種の犬とここで暮らしている。ここはVermilionの17階、その始まりの部屋。
リネを取り巻く日常は何の変哲も無い日常である。朝起きて朝ご飯を食べ、ニルと遊んで昼ご飯を食べ、またニルと遊んで夕ご飯を食べ、そして寝る生活である。パパは毎日皿や花瓶を造り、ママは毎日自分達の食事を作りその他の家事仕事、そして趣味の読書をするのである。ニルは寝るか遊ぶかご飯を食べるか。さして何の変哲も無い日常である。便宜上1号室と呼ぶここは部屋の割にはだだっぴろい。3人が住むちょっとした家が建つのには何の問題の無い広さだ。ただ家があるだけでは殺風景なのでママはせっせと花を植え芝を豊かにし、パパはリネのためにブランコを作った。ここを囲む空間が部屋である、という点を除けは何の違和感も無い幸せそうな家族の像である。リネが好きなこと、それはパパやママと家の前の芝の上でピクニックの如く昼ご飯を食べることである。サンドイッチや林檎ジュースを片手に昨日ニルと遊んだ事やパパの変わった皿の事、ママの難しい本の話の事。
その日もリネはパパとママとニルと暖かい庭の芝の上で昼ご飯を食べていた。今日のメニューはママが作ったサンドイッチと野菜のスープ、うさぎの形に切った林檎ととっておきの葡萄ジュースである。そして何時ものようにニルや皿や難しい本の話をしていた。ここまでは何の変哲も無い日常である。
回廊に出る為の大きく構えた扉はその日ほんの少しだけ開いていた。パパは時々この扉から出て外に皿や花瓶を売りに行き、お土産だよとリネの好きな林檎ジュースやママの読みたい難しい本を持ち帰ってくるのである。でもリネは外がどうなっているのか知らない。そもそもVermilionという存在自体知らない。ここから出ることが無いからである。そのリネにとっては不思議以外何者でもないこの扉がどさっという大きな音とともに突然大きく開いた。3人と1匹の視線はその大きな扉に向かった。何か居る。リネ、ニルとここで待ってなさい。パパにそういわれたリネ。じっとはしていられない年頃のようだ。ニルはお行儀良く座っているがリネはわたしもいくのー、と扉へ向かうパパとママに一生懸命追いつこうと走った。扉の前に一人の男性が倒れていた。お父さん、しらない人がいる。リネは今まで見たことが無いその男性を見ながら言った。それはパパにとってもママにとっても知らない人である。大丈夫ですか・・・、とママが声をかける。いまいち反応が無い。聞こえてますか、とパパが声をかける。ようやく目の前の男性の頭が持ち上がってこちらを見た。顔を見てもやはり見覚えの無い男性である。服装からして旅の中だろうか。3人が見守る中、男性がようやく言葉を発した。
すみません・・・いきなりなんですが・・・とりあえずなにか食べ物を。