Vermilion::text 25F 「旅立ちの先にあるものは」

ここのところ騒がしい、そう黒髪の主婦は感じていた。何時の間にか引っ越してきていた女性 - 「アリサ」と名乗っていた女性はあの忌まわしい店の客となってこの塔から出ることが出来なくなったはずだった。それは彼女も良く理解していたはずだった。他人から見る彼女の生活は絵の具の匂いでむせかえる部屋に篭って絵を描いているかあの忌まわしい店に物資調達へ行くか、飽きて表に出てきて話し相手を探しているふうをしているかのいずれかだった。話飽きるとまた部屋に戻って篭る、そんな生活を送っていた彼女が一週間ほど前、慌てたふうに帰ってくるとばたばたと荷物をまとめ始めた。部屋に似つかない膨大な荷物は昼夜通してまとめてもまとめても一向に減りはしなかった。たまりかねた主婦は彼女に手伝いたいと申し出た。初めて入った部屋は描きかけの絵や絵の具や空き瓶が散乱しており、片や整然と整理された書籍や完成品の絵。雑然としているのか整然としているのかよくわからない印象であった。黙々と荷物をまとめている彼女に主婦は問うた。「あの店を使った以上、ここからは出られないはずでしょ・・・一体何所へ行くというのさ。」彼女は手を止めて話し始めた。「Vermilionからでられない事はわかってますよ。もう出るつもりもありませんし。」彼女はにやりとした。「ここにとどまっている必要は無い。要はここから出なければいいんです。」

「私も最初はもうここから出られないんだ、そう失望しました。もう希望も無い。いっそのこと自らの命を・・・とか考えちゃったりしました。まぁ流石にそれは篭ってた挙句の考えですけど。絵を描き続けられる事は幸せ。でもここにいる事は・・・?そう考えるようになったんです。」
床に落ちている一枚の紙と封筒を拾い上げ、わたしにチラシのような一枚の紙を手渡した。「さすがにここでずっと絵だけ書いていると私が参ってしまいます。そこで私は考えました。いかにここから出ないで新しい生活を送るか。しかも保証された生活を。」その紙には「赤きイスカの学園・講師募集」と描かれておりそこには「絵画クラス・若干名募集、宿舎・食事付き、生活に関しては保証します」と書かれていた。「この間あの店に行った時に手に入れました。望めばなんでも手に入る。いかに新しい生活を手に入れるか、ちょっと頭を使ってみました。」頭を指差してにやりとする彼女。更に続けた。「その学園の所在地はこの塔の六十階です。階が違うだけ。約束は破ってないでしょ?」なかなかやるわね・・・主婦は感心してしまった。今の今までここで生活をしていたがそんな風に考えたことはなかった。自分は馴らされてしまっていたのかもしれない。「すぐ応募したわ。そうしたら学園側からこっちに会いにきてくれた。切羽詰ってたみたいね。で、面接。即採用。野望達成、そういう感じでこういう事態に至ったの。」封筒の中身は正式採用のお知らせ、となっていた。
2昼夜ひたすら荷物の梱包。終わって一息つくと学園からの手配、ということで数人の男性が来た。あー、すいません。と彼女は駆け寄っていく。二・三分やり取りをすると再び主婦のもとへやってきてぺこっと頭を下げた。「なんかもう出発しなきゃいけないみたいです。手伝っていただいて有り難うございました。」男達が梱包された荷物を持ち出していく中彼女は天井を仰ぎ見、呟いた。「新しい世界はどんな世界なんでしょうね・・・まぁ地道にがんばらなきゃその先も開けないか。」

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vermilion::tarotをモチーフに。

swordsやwandが多かったので意味からひいてみました。

Ⅵ.SWORDS - 旅立ち。移動。目的に向かって進む事。計画に沿って動く。
Ⅸ.WANDS(R) - 精神的圧迫。重荷。手に余る現状。疲労。負担
Ⅵ.THE LOVERS(R) - 優柔不断。複数の選択肢。迷い。浮気
ACE of SWORDS(R) - 独断。冷酷。知恵。風の源。
Page of PENTACLES - 少年。子供。勤勉。地味。地道。努力。

赤きイスカの学園・・・60Fのあの学園。*1イスカ=Crossbill。http://village.infoweb.ne.jp/~kaede2/huyutori3.html 一番下にイスカの写真あり。

*1:後でキーワード登録予定。あくまで予定。