Vermilion::text 128F 永遠の闘技場「其れは見えざる刃のように」

追い詰められた。

後ろは赤茶の壁、前にはその数分前まで狙っていた獲物。絶体絶命であった。触れていないはずの日本刀のひやりとした感触が伝わってくるようである。嗚呼、もう此処で私の一生は終わりなんだ。こんなシチュエーションで明日は素敵な事が起きるなんて考えられるわけがない。

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此処に来たのは理由があった。此処で剣を交えそして勝利すれば一生遊んで暮らしていけるだけの金が手に入るという。其れがどれだけのモノかは想像つかなかったが手段を選んでなどいられなかった。自分以外のものを養うには其れしかなかった。鈍く光る短剣を一対携えて此処まで来たのだ。

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永遠の闘技場と呼ばれる其処は闘技場とは名のつくもののただだだっ広いという訳ではない。ある所は小高く小川がせせらぎ、ある所は樹が立ち並び葉が生い茂る。一つの箱庭のような場所であった。そんな箱庭へ金に目が眩んだ者、自分の腕を試したかった者、もっと別の目的で来た者、多数が放り込まれた。自分以外が敵であった。中には共闘するものもいるというが自分にとって其れは良しと思わなかった。三日三晩、兎に角必死だった。最初に殺めた時躊躇いも有った。人を殺めてまで金が欲しいのか。しかし其れは手段。短剣にべっとりとついた血を拭った時既にそれは作業と化していた。自分のスタイルがある意味暗殺者のようなスタイルであることも幸いしてひとり、ふたり、さんにん、順調に作業を進めていた。

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4日目の朝、その女を次のターゲットに据えた。相手は軽装で日本刀のみ。如何みても他の武器は隠し持っていそうにない。後ろから首を掻っ切って短時間で事を済ませたい。すすっと後ろにつけてその右手に握られた短剣を振り上げた。

ガキッっと鈍い音が場の空気を凍らせた。狙っていたその女は既に振り向き日本刀で短剣を押さえ込んでいた。瞬間、左手の短剣を横に滑らせるように斬りつける。しかし刃は空を切り勢い余って大勢を崩す。容赦なく女の蹴りが左手を直撃する。左手に握られていたはずの短剣は弧を描き後方の地面へ突き刺さった。呆然としている頭上に刀が振り下ろされる。反射的に右手の短剣で押さえ込む。まずい。振り切るしかない。即座に立ち上がり走る。しかし場所が悪かった。赤茶の壁はまるで迷路のように細く、そして逃げ出すものを引き止めるかのように袋小路になっていた。短剣を構え後ろへすり足で後進する。前からは日本刀を構えた女が冷たい視線を向けていた。刃が喉もとにつきたてられる。

「私にも欲しいものがあるんです」
「だからさようなら」


目の前が赤くなった、そしてブラックアウト。